La chasse 狩り
あんた狩猟民族だね、ぜったいぜったい狩猟民族だね! ハンティングは苦手な私が、そう言われたのはいつだったろう。蟹の脚をべきべき折っていたからあれは冬だったか、かぶとむしの脚がかちゃかちゃいってたから夏だったか。いや、牛が鳴いていたからハラホロヒレと週末のことだったかもしれない。何の話をするつもりだっけ。そうそう、さまざまに美しいオノマトペ(onomatopeia/擬音語・擬態語)を持つ日本語が母国語でよかったという話です。つまり今日のEasy Etudeは、オノマトペの秀歌を獲むと馬並めていざ狩りに立つべし。
たとえば、かなかな。蜩の鳴き声がそのまま呼び名となっている。私にはテケテケテケとも聞こえるが、疑問や禁止のニュアンスを微量に含む詠嘆の終助詞「哉」にふたたび金属的な音を響かせ、儚さや切なさの擬態としたのか。 かなかなの啼くこころざし たとふれば我を生しし日の父のくやしさ 大辻隆弘『水廊』(平元)※ルビ:我=あ、生=な おお! かなかな 非在の歌よ、草むらに沈める斧も昨夜の反響 前 登志夫『霊異記』(昭47)
そして数々の鳥の鳴き声。 土鳩はどどつぽどどつぽ茨咲く野はねむたくてどどつぽどどつぽ 河野裕子『ひるがほ』(昭51) ごろすけほう心ほほけてごろすけほうしんじついとしいごろすけほう 岡野弘彦『飛天』(平3)
また、セロリのサキサキ。 サキサキとセロリ噛みいてあどけなき汝を愛する理由はいらず 佐佐木幸綱(昭46)
ツメのしんしん。 わが切りし二十の爪がしんしんとピースの罐に冷えてゆくらし 寺山修司『田園に死す』(昭40)
人のはらはら。 日本語をあやつるときの天皇をつねはらはらとわれらおもへりき 小池光『草の庭』(平7)
そして、桃のぼあんぼあん。 鶏ねむる村の東西南北にぼあーんぼあーんと桃の花見ゆ 小中英之『翼鏡』(昭56)
子供っぽいかもしれないけれど、捨てられないのは光るきらきら。 たつた一人の母狂はせし夕ぐれをきらきら光る山から飛べり 前川佐美雄『大和』(昭15)
オノマトペの日本に生まれてよかった。
+25 Easy Etudes, N゚9 秀歌と思うオノマトペの短歌5首をあげ、その理由もつけなさい。また次の言葉を用いて短歌をつくりなさい。(1)ワンワン(平仮名も可) (2)自由題(ただし擬音語、擬態語であること)
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