短歌ヴァーサス 風媒社
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2004.8.2〜2006.6.30の期間(一時期、休載期間あり)、執筆されたバックナンバーをご紹介します

 
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佐藤りえ

 
電源時代

 必要にせまられて、ものすごく久しぶりにカセットテーププレーヤーを取り出した。電池でも動くタイプのものだけれど、安定走行させたいと思い、電源用のアダプターをつなごう、と同じ場所をまさぐったが、見つからない。仕方なく電源の箱をひっくりかえす。中からは、大量のコードがからまった情緒のない毬藻のような物体が転がり出てきた。
 「電源の箱」とは何か。私には家電を買った瞬間に箱を捨ててしまう癖がある。めったに使わないものや、埃をかぶせたくないもの(フードプロセッサなど)をのぞいて、かさばる箱を早々に始末してしまいたくなるのだ。取り替え用のプラグだとか延長コードだとか、そういったこまごましたものはひとつの箱にまとめておく。そうして故障やヴァージョンアップで本体を処分した後も、電源や取り替えプラグだけは箱の中に残っていくのであった。「電源の箱」はそういう部品達の寄せ集まった箱である。重い。
 カセットテーププレーヤーは本体にもアダプターにもメーカー名などが記されていたので、さして悩まずにカップリングさせることができた。これが、いくら探してもどれがどれだかわからなくなってしまうこともある。何にも該当しないコードは処分したらいいと自分でも思うが、面倒臭さと、うっかり重要な部品だったら困る、という心配から箱の中身は増える一方で、整理のつく気配がない。
 星新一の小説に「装置の時代」という話があった。日常生活のほとんどが「装置」によってまかなわれている、未来の便利さを謳い、数百種のそれら装置が毎日どこかしら故障し日常生活に支障をきたすがために、毎日修理と回収と検査にあけくれる、こんな時代が来るとはな!といった内容で、今やその寓話を笑い飛ばす気にはなれない。われわれは年に何種類ぐらいの電化製品を買い替えたり新調したりしているのだろう。ゼロってことはないだろう。
 そういう煩雑な家電事情のなか、充電器や電源コードの不備は悲惨きわまりないので、メーカーはいっそ会社ごとにコードの色分けなど図られてはいかがだろうか。青いのはソニーね、とか、大変便利なんじゃないかと妄想する。金のコードと銀のコードと普通のコードだったら、やっぱり普通のコードがいいけれど。
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