短歌ヴァーサス 風媒社
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★短歌ヴァーサスは、11号で休刊になりました★
2004.8.2〜2006.6.30の期間(一時期、休載期間あり)、執筆されたバックナンバーをご紹介します

 
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三宅やよい

 
通勤の帰り

 駅からマンションまで短い商店街を抜ける。高円寺や阿佐ヶ谷など立派なアーケード付商店街ではないけど、夕食の買い物をしながら商店街を抜けて4,5分で家に行き着けるのは嬉しい。
 ここに越してきてから一年だけど、なじみになった角の八百屋さんは勘定を負けてくれたり、「持って帰りなよ」とほうれん草や三つ葉を袋に入れてくれたりする。いなり寿司と団子を並べて売っている和菓子屋の主人も、とんかつ「銀平」の店主も70近くのおじいさんで、商売に見切りをつけた店はまたたくまにせいたかノッポのワンルームマンションや、コンビニに化けてしまう。商店街の寿命が見えているようで心が痛む。
 「アキレス靴」と看板を出した靴屋にはうすい茶のトラ柄のネコがいて、冬の寒いときには電気ストーブのそばでうつらうつらしているが、夏には近所のお茶屋さんの土間に寝そべっていたりする。洋品店のおじさんに餌をもらっている姿を目撃したこともある。
 「靴屋のネコ」と我が家で呼びならしていたネコであるが、上の娘が見たネコは尻尾が短く、下の娘が見た猫は病気になって額の毛がうすくなっていたという。私が見たネコは毛艶よく長い尻尾を優雅に揺らしながら歩いていたのに。ひょっとすると親子何代か違うトラ柄のネコがいろんなところに出没しているのかもしれない。家族同時にネコを見たこともなく、靴屋のネコがどの猫なのか定かではない。どちらにしてもあまり車のはいってこない商店街をトラネコ一族が気ままに生きているとすれば幸せだ。この間散歩の折に犬用の散歩紐を首につけて、引っ張られながらうんちしているネコを見て思わず娘と顔を見合わせてしまった。
 あんまりじゃないか。ネコなのに。

  隻眼の猫が頭目秋彼岸  やよい
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