短歌ヴァーサス 風媒社
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★短歌ヴァーサスは、11号で休刊になりました★
2004.8.2〜2006.6.30の期間(一時期、休載期間あり)、執筆されたバックナンバーをご紹介します

 
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佐藤りえ

 
猫叱咤する(前編)

 ひょんなことから、不在のKさんにかわって飼っている二匹の猫の世話をすることになった。よく晴れた日曜のひるさがり、友人Aさんと共にKさんのマンションを訪ねる。鞄の中には今日のために用意しておいた「猫大好き・またたび入りジャーキー」と「やわらかささみほぐし身スティック」が忍ばせてある。ふだん食べている餌がカリカリ(固形餌)かシーバ系(缶詰入り、半生タイプ)かによって、おやつにも好みがあるように思うが、きくのを忘れてしまった。果たしてKさん家の猫は気に入ってくれるだろうか。期待と不安で胸がときめく。
 ドアをそっと開ける。廊下への飛び出しに注意、とあらかじめ貰った注意書きにあったので、少し開けて中の様子を確認してから、人間が通り抜ける幅にドアを開け広げる。玄関先には誰もいない。真夏の盛りのこと、室内はむわっとしている。照明のスイッチを入れると奥の部屋からとっとっと、と短毛のもなかさんが姿を現し私とAさんの足下を8の字に旋回した。アテレコをするなら「誰やこいつ」という感じか。
 まずは注意書きにあった依頼事項を片付けようと窓を開け放ち、同時にエアコンをかけて(当日は真夏日だった)作業を開始する。
*部屋の換気
*餌、水の補充
*猫砂の入れ替え
 ふたつある部屋の畳敷きのほういちめんに、長毛のぎんさんの毛がふわふわと漂っていた。カーペットコロコロなどを駆使して毛のたぐいを取り除き、キッチンスペースの端に設けられた「餌ガレージ」で餌と水を取り替える。ぎんさんはその頃になってようやく我々の周りを微妙な距離を保ちながら周回しはじめた。もなかさんは餌が入った皿にさっそく近づき、食べ始めた。見ると、餌皿に左前足を突っ込んで、餌を口に運ぼうとしている。
「手で食べている…」床にちらばっていたのは食べ零した餌ではなく、取り損ねた餌だったのか。それにしてもかなり器用なもなかさんの食事風景をしばし眺める。ぎんさんは少し離れたところでその様子を伺っているのか、自分の餌皿に近づこうとしない。あとでKさんに聞いたところによると、年少のぎんさんは気をつかってか、もなかさんの食べ終えた後にしか餌を食べないのだという。もなかさん4歳♀、ぎんさん2歳♂。このふたり(二匹)にも、それなりの秩序とか掟が存在するのだろう。もなかさんが片手掴みの食事を終えたころ、ぎんさんも自分の皿に静かに近づいて行った。猫馬鹿なわれわれは、その姿を眺めるだけでもうメロメロだった。
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