自分だけは死なない
思い込みで今までの人生をやってきた気がする。その自信もだいぶ揺らいできた今日このごろ、いつ死んでもいいように街中にあふれる監視カメラが優しく見守ってくれる。
マドリード駅の監視カメラに残されていた映像、もくもくと階段を上がってくる人達の群れの後方で何か光った。まだ人々は下を向いたまま、そして次の瞬間人々の映像は真っ黒な黒煙と闇の中に消える。毎日乗り降りする高田馬場駅や地下鉄東西線の階段で同じことが起ったとしても何の不思議もない。私も群集の一人としてたちまち黒煙に呑み込まれぼろきれのように投げ出されるだろう。天井近くに取り付けられたベージュの監視カメラがその一部始終を記録してくれる。
満員電車の朝夕、目の前のつり革に福知山線の潰れた車両の白いつり革が。7人掛け座席の片隅に転がった空き缶にへしゃげたビニール袋が重なる。目にした映像、目にしなかった映像が見知らぬ人達に身体を預けながら揺れる満員の車内でふとした拍子に思い出される。
人があふれるホームを特急電車が通過してゆく。３０�竸搬里�よろめくだけで巻き込まれそうなのに、俯いてメールしながら白線の外側を女子高生が歩いてゆく。パトカーが数台止まっているマンションの玄関に張られた立ち入り禁止の黄色いテープをたくし上げて、ポリ袋を提げた小太りの主婦が入ってゆく。エレベータで、ビルのフロアでコンビニで、商店街でカメラは回り続ける。
暴力と無関心と享楽が奇妙に同居してめまぐるしい回転するこの日常が嫌かというとそうでもない。災害や事故に出くわして横死する不安は誰もが感じているだろう。毎日毎日水のように流れる映像が止まったら最後、ろくなことはない。再生されるのは不在の証明。結果は誰も見ることができないのかも。
縞馬の留守に煙になるカンナ やよい
|
