短歌ヴァーサス 風媒社
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2004.8.2〜2006.6.30の期間(一時期、休載期間あり)、執筆されたバックナンバーをご紹介します

 
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佐藤りえ

 
さがしものについて

 さっきから机の上から中からひっかきまわしているが見つからないものがある。ダブルクリップの豆豆サイズというやつで、ごく小さなものである。引き出しのトレイの中に2つか3つ転がっていたはずが、まったくみあたらない。書類をはさんでおくのにかさばらない、この小さなクリップを私は愛好していて、一箱買いおいたはずが、すっかり使いつくされてしまったのかもしれない。
 ひとは探し物が見つからない時に主に3つの行動をとるんじゃないかと思う。
  1)鼻息を荒くして探し続ける
  2)帰宅した相方に難癖をつける
  3)あきらめて新しいものを買いに行く
 自分の場合でいうとこの3つの状態を時系列順に経て行くものと思われる(現在進行形)。今は1の段階で、いや待て、やっぱりあっちだったかも、と文房具の入った引き出しをかき回し、もう何度も見た机の上の小さな引き出しの、さらに上についているトレイの中のこまごましたものを手に取って置く、を繰り返している。相方はまだ帰宅しないので2に進むことができないが、むろん時間の問題である。
 ところが今日中に3には進めそうにない。ダブルクリップ(豆豆サイズ)はきちんとした文房具店に行かないと手に入らないからである。この時間(夜の10時をまわっている)にあいているような、コンビニや深夜営業のスーパーマーケットなどでは扱っていない商品なのだ。いつもわざわざ坂の上の文房具店か、東急ハンズで購入しているものなのだ。しかし私は「今すぐ」ダブルクリップ(豆豆サイズ)が欲しい。書類の右上をひっそりと、しっかりと留めたい。
 別なクリップでもいいんじゃないの(大きなダブルクリップは引き出しに入っていた)?とか、ホッチキスでとめたら?とか、今夜中に人に渡すの?明日でも十分間に合うんじゃないの?といった問いはこの状況に対して適切でない。急を要するとは、必然性の前に立ちはだかる巨大な欲望の壁なのだ(自分でも若干意味不明)。
 まあ、あきらめるのも時間の問題かと思います。それはそれとして、蛇の目クリップがたくさんあることがわかってよかった。諸々の作業に常に必要なものなのです。しかしいずれ、あっさり在処を忘れてしまうことでしょう。欲望の壁の前には、忘却のふかあい谷があるのです。
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