短歌ヴァーサス 風媒社
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★短歌ヴァーサスは、11号で休刊になりました★
2004.8.2〜2006.6.30の期間(一時期、休載期間あり)、執筆されたバックナンバーをご紹介します

 
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佐藤りえ

 
歯医者嫌い

 一年ぶりに(また)歯医者に通っている。10年ほど前に銀冠を詰めた歯が欠けてしまったためだ。歯医者が好き、という人はなかなかいないと思うけれど、自分は特に苦手な部類に入ると思う。そして苦手な割に縁がある。
 こどもの頃から虫歯が多かった。いつだったか、教室に張り出された虫歯グラフでぶっちぎりのトップになったこともあった(「虫歯のない歯グラフ」のほうが妥当なのではないかと今なら思う)。口の大きさに対して歯が大きすぎるということがわかり、4年をかけて歯列矯正もした。矯正のために何本か抜歯もした。親知らずもすべて抜いたのに、それでも納まりきらないほどの歯をもっていたらしい。呪われたとしか思えないそんな口まわりのおかげで、数多の歯医者におもむき、おおきく口を開いてきた。
 歯医者が嫌いな最たる理由は、あたりまえだが治療が痛いことである。待合室で耳にする、あの器具の音がすでにして痛い。病巣をいじくるのだから痛いに決まっているので麻酔をしてもらうが、人によっては麻酔すら痛い。いっそ卒倒したまま治療してほしいところだが、隣の診察台で自分の腰丈ぐらいの子供が「よくがんばったねー」などと誉められながらうがいしているのを見ると、そんな情けないことは頼めない。放っておけば悪化するし、痛いし、ものを食べるのが苦痛になる。そして喉と歯の痛みはものを考える能力を格段に低下させる。仕方なく保険証を携えて歯科医院の扉を叩く。受付嬢の微笑みを見てうなだれる。また会ってしまいましたね…。
 ちょっとかなしいのは、歯痛は深刻さが伝わりにくいということだ。史上最悪に痛いと訴えてもあまり同情されるものでもない。もっと長期の加療が必要な病気と比較してみれば、それは命に別状はないが、心理的ダメージは結構大きいものである。そういえば病気の歌は数あれど、歯痛の短歌というものはあまり見たことがない。ブリッジをつけているうちに「歯列矯正短歌」でも作っておくんだった。こんなことを言えるのも、治療が終わったからに他ならないのだけれど。はじめてブリッジをつけた夜はうどんも喉を通らなかったです、痛くて。

  デンティスト・オフィス夕映え 永遠に開かなくていいドアから声が
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