短歌ヴァーサス 風媒社
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2004.8.2〜2006.6.30の期間(一時期、休載期間あり)、執筆されたバックナンバーをご紹介します

 
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若原光彦

 
好奇心は猫を救うか?

 あなたが確認した瞬間にだけ、私は存在しているのです。若原光彦です。

 量子力学に『シュレディンガーの猫』という思考実験があります。「観測するから結果が決まる」「観測するまでは結果は○でも×でもある状態にある」を出す数式のたとえらしいのですが、どうもよくわかりません。「箱に猫を入れまして……」というたとえがピンと来ません。

『猫は暴れるだろう? 箱ごしでも生死ぐらいわかるぞ』
「眠らせとくんだよ、当然」
『それでも気配でわかるだろう』
「お前の嗅覚は犬並みか?」
『いや……とにかく、そもそもなぜ猫だ?』
「知るか。シュレちゃんも猫キライだったんだろ」
『も? いまお前は全世界の猫好きを敵に回したぞ』

 現実的な解釈に引っかかっていては概念が理解できません。『シュレディンガーの猫』は語感も図解もミステリアスで魅力的ですが、たとえとしてはあまり適切ではないと思うのです。

 じゃあ、もっと適切なたとえを考えよう! そこに中途半端な比喩がある、さあ詩人の出番だ。いっちょう誰もが納得するスッキリ快便なたとえを見せてやろうじゃないか! さあ! さあ!

   *

『いいか? ある女性アイドルのコンサート、会場は開演直前だ』
「おとこ臭そうだな……」
『超満員だ』
「行きたくねえ……」
『だがお前はそこに居るのだ。さあこの時、コンサートは始まるか? 中止か?』
「普通に始まらないのか」
『楽屋か舞台ソデかにアイドルが控えている可能性はどちらとも言えず、どちらでもある』
「普通いるだろ」
『超多忙アイドルの車が大渋滞にハマっていたのだ』
「じゃあ時間押しで開催か」
『しかし事務所側も黙っちゃいない。ヘリを呼んででも会場に立たせるつもりだ』
「手に汗握る場面だな」
『そんなだから、さあ開演3分前。アイドルはそこに居るか? 居ないか?』
「俺には居たほうがいいんだろうな」
『じゃあ居たことにしてやろう。しかしお前が感動の余り失神する可能性もまたどちらとも言えず……』
「もういい。脳みそまでムサくなる」

   *

 ううーむ。いま私が反省を求められている可能性もまた揺らぎの世界にあるという訳ですな。
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