短歌ヴァーサス 風媒社
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★短歌ヴァーサスは、11号で休刊になりました★
2004.8.2〜2006.6.30の期間(一時期、休載期間あり)、執筆されたバックナンバーをご紹介します

 
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三宅やよい

 
宅配ボックスに

 荷物が届いていた。宛先を確かめると同姓の階下の住人宛だった。ボックスに戻して家に帰ると食卓の上にホントウのお中元が届けられていた。正確に言うと私ではなく連れ合い宛のものであるが、こちらは何の疑問もなく封を切る。先ほどの荷物と同じように顔を合わせたことのない人からのお届けものであっても、べりべり包装紙を破る。子供の頃、床の間に並べてあるお中元をあけるのは末っ子の私の役目で、かすてらと期待した桐箱の中が干ししいたけや鰹節だと心底がっかりしたものだ。えらそうに贈答品に文句をつけながら私は私宛でないものを食べ続けている。
 歳時記の受け売りによると、正月が上元で、七月十五日が中元、一年を二つに分けて半年の無事を祝い、先祖を供養する盂蘭盆と結びついているとか、いないとか。今ではお盆と切り離された形で贈答の習慣だけが残っているそうだけど、もしかするとこうして送ってくださる方たちもホントウは止めたいのに止められないのではないかしら。お盆の混んだ頃をわざわざ選んで帰省するのは、先祖への供養を時宜通り済ませたい親のため。盆暮の挨拶は上司との、先輩とのちょっと煙たい関係を持続する意思を贈答を通じて確認し合っているのかも。関係の外にいる私が礼状を書こうにも末尾の差出人に「○○内」と書くのも嫌だし、あからさまに「ごちそうさま」と書くのもちと厚かましい。じゃあ何て書けばいいんだ。書き出しの一行に躓いたまま二十年が過ぎてしまった。
 中元のアイスクリームを口に運びつつソファに寝転んでビデオ屋で借りてきた「スイミングプール」を見る。フランスの晩夏の陽射しに揺れるプールの脇では、すっかり老けたシャーロット・ランブリングが少女の肢体を眩しげに見下ろしている。

  幽霊の四隅抱えるお中元   やよい

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