短歌ヴァーサス 風媒社
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★短歌ヴァーサスは、11号で休刊になりました★
2004.8.2〜2006.6.30の期間(一時期、休載期間あり)、執筆されたバックナンバーをご紹介します

 
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三宅やよい

 
疲れた日には

 近くの立野公園の大きな欅に会いに行く。
 欅は東京の樹。虚子がホトトギスで行った『武蔵野探勝』の第一回は府中の「欅の並木」を見に行くことだった。
 
 ―東京近郊に出ると必ず欅の並木に出くはす。欅や楢や椎が大空に高く延びてゐて、其下に昔風の人家の尚残ってゐるものを散見するのである。―
 
 松山出身の虚子にも東京の大きな欅は珍しかったのだろうか、欅との出会いに楽しみを見出している。この季節、何キロも続く欅並木がいっせいに木の葉を散らす様も見事だけど、中道にそれた住宅街に、これはと思う大木に出会うのも散歩の楽しみの一つ。
 公園の欅の下に寝転がって空を見上げるとごうっと巻きあがった風に次から次へと木の葉が躍り上がってはベンチの上に降りかかってくる。毎週来るたびに枝の間から見える青空の比率が大きくなってゆくように思える。
 枝の間から見える緑と青の相性のよさを知ったのは中学二年ごろ。テニスの強化練習でへとへとになった身体を藤棚のベンチに投げ出して上を見上げたときだった。吹き渡る風に汗がひいてゆく爽快さと合間って、茂った葉の間からのぞいている空と緑の色のコントラストが疲れた身体にしみるようだった。あのとき見上げていた神戸の夏空はのっぺり湿っていたように思うが、欅の枝の間に見える東京の冬空はただただ青い一枚板で、たたけばキーンと響きそうだ。
 運動場のずっと向こうから一人の友が砂埃をあげながら走ってきて、食堂のテレビでアポロ11号の月面着陸をテレビで実況中継していると教えてくれたっけ。
 公園の野茨の実が赤く宝石のように光っている。もう少しで今年も終わりだ。

  冬晴れの鳥は方位を見失う  やよい
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