彼女が薮蚊に食われたら
若原光彦です。『じゃあビール。』と言うつもりで『じゃあビーム。』と言ったことがあります。出されなくてよかったと後になって思うわけです。
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ともあれ、話は未来、来年の夏です。今から準備しても遅いということはありません。 ……夏と言えば、蚊ですね。蚊に刺されると、かゆいですよね。さてどうします。 私は蚊に食われると、患部を洗濯ばさみで挟みます。爪を立てて掻くから肌を荒らすのであって、ただ挟んでいるだけなら無害です。リンパ液みたいなのが漏れてくることもありますが、とりあえず心は落ち着きます。虫さされのかゆみは我慢できなくても、洗濯ばさみの痛ここちよさは我慢できます。結果、かゆみは和らぐというわけです。 余談ですが私の知人Hは蚊に食われると、患部に絆創膏を貼ります。患部を空気に触れさせなければ蚊に刺されてもかゆくないそうです。テレビでやってたとのことで、私も試してはみたのですが……変化なし、かゆい。でもHは貼る。腕に足にとバシバシ貼る。 『また絆創膏……あんたはそれでかゆみがおさまるの?』 「いいや」 『じゃあなんで貼るのよ』 「ちょっと弱くなる気がする」 Hは迷信や権威に極端に弱い人なのでした。『風評を信じるな。自分の実感で生きろ』と言いたいところですが、Hの迷信がHの実感を生んでいるのであり、HはHなりの実感で生きているとも言えます。難題です。
ちなみに私の洗濯ばさみ方式ですが、これは誰に言っても否定されます。 「痛くないの?」 『痛くない。そりゃ小鼻とかなら痛いだろうけど』 「邪魔じゃない?」 『腕ぐらいなら邪魔にはならない』 「人前じゃできないでしょ」 『家ん中でしかやらないね。あとは大自然とか』 「大自然って何よ」 『荒野とか別荘とか、こう、開放的なプライベートなとこならやるね、きっと』 「別荘あるの?」 『無いよ』 「……。何、この話?」 『さあ?』 全否定です。人格性格含めての。
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いま気づいたのですが、遅くはなくとも、早いということはありましたね。なあに、早くて困るのは拍手ぐらいのものです。風林火山の機動でよいお年を。光陰矢の如く、ああ川の流れのように。乾杯! |