短歌ヴァーサス 風媒社
カレンダー 執筆者 リンク 各号の紹介 歌集案内

★短歌ヴァーサスは、11号で休刊になりました★
2004.8.2〜2006.6.30の期間(一時期、休載期間あり)、執筆されたバックナンバーをご紹介します

 
← 2005.12.11
2005.12.12
 
2005.12.13 →


斉藤斎藤

 
かぁさん、おなかすいたよう

 船橋の駅まわりは路地がうねうねぐにっていて、それは昔このへんが成田山参詣の客をあつめる歓楽街であった名残という。そんな船橋にも再開発の波はおとずれて、たとえばJR船橋駅と京成船橋駅を二階でつなぐ駅ビル「FACE」のおかげで乗換客目当てに駅と駅とのあいだの地面にみっしりひしめいてた個人商店は一軒潰れ二軒立ち退きした跡に和民大戸屋スターバックスと流れ込んで、とまあ、よくある駅前めざしすくすく育ってきた割に煮え切らないところがどこかあって、というのも千葉県と船橋市の相性がひどくって県は市に県有地を、市は県に市有地を売りたがらぬようでは都市計画どころの騒ぎではなく、だから地上げ屋も四角く土地を買い占めることはできなく煮崩れたちくわぶのようなマンションがおちこちに点在しているのが船橋という風景だ。マンション住民の62%は、十年以内に船橋を出て行きたいと答えている。
 62%はうろ覚えだが、あなたはどう思われますか。どの駅前にもスタバがあったらちょっと嫌ですけど、おざなりのナポリタンを680円で出す純喫茶には毛頭入りたくない私は、和民大戸屋スターバックスの進出を食い止めるほどの文句はない。まあ言い分はわかるけどもねというテンションでついてゆくと「遊郭」という出し物があった。
 船橋にはむかし遊郭もあって、いまは住宅街にぽつんとあるストリップ小屋を左に折れるともと妓楼だった廃屋が一軒だけのこっている。その廃屋の前で「おどりおばけ」がおどりを踊る。おどりおばけとはお客さんが鳴らす鳴り物にあわせておどるダンスの人だから、お客さんの私もカスタネットを渡されて鳴らさないわけにもいかない。おどりおばけはおどりながら駅前のほうに歩いてゆき、わたしたちは鳴り物を鳴らしながらついてゆき、客観的に見ればぼくらは練り歩いている。とうふ屋の主人が店から出てきて、「これ何ですか」と尋ねる。「演劇のようなものです」と私。(この項、つづく)
← 2005.12.11
2005.12.12
 
2005.12.13 →