短歌ヴァーサス 風媒社
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2004.8.2〜2006.6.30の期間(一時期、休載期間あり)、執筆されたバックナンバーをご紹介します

 
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佐藤りえ

 
歩行と思考について

 最近はすっかり秋めいて、散歩がはかどるようになりました。散歩といっても、天候が悪かったり急いでいたりしない範囲で、歩ける場所には歩いて行く、という程度のものです。徒歩三十分圏内は自分にとっては「近いので歩く」という距離感にはいります。
 歩いているととりとめもないことを考えるもので、以下はある日の散歩中の頭の中の様子です。
(さいきん天気いいなあ)(うわ、蜂が)(もうすぐ冬籠りだものなあ)(冬籠り=熊)(熊の絵かかないと)(ラインが)(年賀状、来年は戌年)(犬といえば木内さんだな)(展覧会)(コーヒー飲みたいな)(ドトールが出来たっけ)(タダ券置いてきちゃったな)(青のうちに渡る)(図書館、期限切れてたな)(メモとらないと)(題詠の続き)(靴下)(ユニクロ行こう)(パスネットが切れている)(地下鉄)(ipod持ってる?あるな)(歩きながらは危ない)(ガムと同じ大きさ)(コーヒーガムって今でもあるのかな)(帰ったらメールの返事を)(巨乳)(寄せて上げるブラって痛くないのかな)(焦げ茶、ターコイズ)(ねむい)(そうだ池袋のリブロに行けば)(あのへん空いてるな)(染み抜き)(朝九時迄)(ハチクロの最新刊が)(モテリーマン占いは)(あ、電車来た)(三両目三両目)(ハハに電話を)(小食)(外が見える電車)(何駅目?)(ーーー)(スカンジナビア半島は)(7・5)(お題持ってくればよかったな)
 なんだか筒井康隆の小説のようになってしまいましたが。実際はこれらの断片が重なり合ったり前後したり、同時に存在したりしながら、横断歩道を渡って地下鉄の駅に行き、プリペイドカードを買って改札を通って地下鉄に乗る、といった行動をとっています。人間は意外と器用にできているようです。
 しかしこれらの断片的思考なり考察なりイメージは、同時に損なわれていくもので、期限切れの図書を私はまだ返却していないし、クリーニングに染み抜きが必要な上着を持って行くことも完遂されていないままです。これを例えば小型の録音装置(ICレコーダなど)を持ち歩いて、思いつくままに声にして記録するなどして残すことも、可能といえばそうですが、そこまでするのもどうかと思う(だいいちあやしい人物としてどこかで捕獲されかねない)。記憶にとどめることも大事ですが、忘れることも同じぐらい重要な機能でありましょう。歩行が促すのは思考の循環作用なんじゃないでしょうか。
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