短歌ヴァーサス 風媒社
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2004.8.2〜2006.6.30の期間(一時期、休載期間あり)、執筆されたバックナンバーをご紹介します

 
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若原光彦

 
空色の怪物体

 先月、帰宅したら謎の物体が食卓に乗っていました。
『何だこれは?!』
 形は大きめのジャガイモほどで、外皮は空色。ばっくりと縦に裂け目があり、中は空洞で、白っぽい芋虫のようなものが横たわっている。芋虫の表面には無数の黒い粒が透けて見えている。何だこれは?! これは一体なんなんだ!!!
 植物である、ということだけは見てわかりましたが、こんな異星人の卵みたいなものがなぜ我が家の食卓に乗っているのか。どうせいと言うのだ。捨てていいのか? 燃えるゴミでいいのか? ちゃんと燃えるかな? 毒素とか出さないか? 焼くと「ぎょわあああああアー」とか叫び声あげたりしないよな?
『うっ。なんだかわからんが触れない方がいいだろう。臭いをかぐだけでも危険かもしれん』
 私は即座に家を出ました。そしてはからずも百円ショップで不要な買い物をしてしまったのですがそれは本題とは無関係です。もとい。

 再び帰宅した私が目にしたのは、さらに驚愕する状況でした。食卓で、家族が先ほどの異星人の卵を食べていました。
『おいそれ食べて大丈夫なのかよ』
「あまい」
『ンなこたア聞いてねえよ!!!』
 食べていました。白い芋虫を口に含み、くちゃくちゃとしゃぶる。黒い粒を皿にペッと吐き出す。どう見ても食品には見えない。ていうか、明らかに毒だぞそれは。魔女が煮詰めた方が似合うしろもんだぞ。平和な食卓に乗るべきものではないと思われますが。
「あけびだよ」
『おけぴ?』
「あけび」
 何でしょうそれは。呪文ですか。

 よくよく聞くと、怪物体は果実の一種で、家族がハイキングで見つけ採ってきたものとのことでした。
『見るからに毒なんですけど?』
「違うわね」
『よくそんなもの食べる気になれるね?』
「私らは懐かしいから食べるよ。この種、河原に埋めたら毎年食べれるかねえ」
『人騒がせだからやめてくれ』
「あんたも食べる?」
『いやいい』
 世の中には常識では計れない物体があるのだと知らされました。どう見ても異星人の卵なんだけどな……。もしかして俺の家族は宇宙人だったのか? その血を引く俺も?

 ペリーに食わせてたら確実に世界大戦に発展していたと思われます。あけび。
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