短歌ヴァーサス 風媒社
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★短歌ヴァーサスは、11号で休刊になりました★
2004.8.2〜2006.6.30の期間(一時期、休載期間あり)、執筆されたバックナンバーをご紹介します

 
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佐藤りえ

 
初詣

 年越し蕎麦を食べ、年が明けて少ししたころ、近所の小さな神社へ初詣に出かけた。クリスマスに比して年末年始は気分の高揚が少ないが、初詣は無性に好きで、行事として欠かせない。
 町内会のひとか氏子さんらしきひとたち(両方かと思われる)が鳥居をくぐったところにテントを建てて、参拝客に甘酒を勧めている。その様子を横目に、去年のお札を納めて参拝の列に続く。前回は年越詣をして、行列が随分長かったためたいへん寒い思いをしたのだった。ことしはそんなこともなく、行列は小刻みに前進している。二、三組前の二人連れがダックスフントを二匹連れている。大勢の人に囲まれながら、犬たちは存外おとなしく詣でていった。
 この神社では参拝客全員に福守を授けてくれる。お社を離れ、巫女さんからお神酒をいただく。町内会の法被を着たおじさんが構えているおみくじをひく。末吉で「時期を待てば運がひらける」とあるので待とうと思う。社務所でお札をいただく。今年は本厄にあたる年だから、と相方から厄除けのお守りをひとつ持たされる。やっともと来た方向に出てお待ちかねの甘酒をいただく。大鍋からお玉ですくった、とろりとした液体を紙コップに注がれる。電燈に照らされながら、ほかほかの湯気に顔をうずめるようにして、ひといきにそれを飲み干すのだった。
 ここはまぎれもなく東京のど真ん中の一角なんだけれども、敷地の上にぽっかりとあいた夜空を見上げていると、鼻腔の奥につーんと漂って来るのはまぎれもなく真冬の夜の空気であることに気づく。まさに「困った時の神だのみ」であるのに、そこが神域だからなのか、お参りのあとさきというのはふっとこころの動きがアイドリング状態に持って行かれることがある。煩雑で矮小で混沌で苦痛で弛緩している日常からすこし自由になるための時間をこうして手に入れることを、今年も忘れずにいよう、と静かな決意に満ちながら、車通りの途絶えた街路を帰途についた。星も若干見えていた。 
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