名づける
その日京都で泉紅実さん、倉本朝世さんと会った。泉さんとは同じ川柳誌に出句していたこともあり旧知の仲だが、倉本さんとゆっくり話すのは三度目くらいだ。第一句集出版を考えていた泉さんの話が一段落したころ、倉本さんが「ニュースペーパーのようなものを出そうかと思っている」と言い出した。そのころ家庭の事情で川柳作家としての活動を休止していた彼女だが、やはり書くことをやめられないようだった。川柳中心の生活は無理だけれど、不定期にA4一枚のコピー紙を出して、少数の友人に送るくらいならできそうだと言う。 わたしも所属していた川柳誌を離れたあとで、「そのうちホームページをつくろうかと思っているんだ」ともらした。すると泉さんが、「こっちから読んだら倉本朝世、逆から読んだら矢島玖美子、みたいな本があったら読みたいなあ」と言った。そんな安直な、と三人で笑った。 ひと足早く帰った泉さんに教わったおいしいお蕎麦屋さんで食事をして、京都駅で新幹線を待つ間、とりとめのない話を二人でしていた。倉本さんの仕事場である競輪業界紙の話から、レースの話題になった。 「○○(競輪選手の名前)はノーマークやったから」 そう言ったあと、彼女はわたしの目を見た。 「『ノーマーク』ってどう?」 それが二人で始めるコピー紙の名前になった。そして創刊号の原稿締め切り日が決まり、ほぼ一ケ月後に「NO MARK 第1号」を発行した。昨年夏に開設したホームページの原型だ。名づけたとき何かが動いたのだと思う。 (NO MARK http://www.geocities.jp/nomark6061/)
新しいわたしに誰も気付かない 新家完司 (1997年 朝日新聞社刊『風の窓辺で 川柳新子座’96』)
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