短歌ヴァーサス 風媒社
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2004.8.2〜2006.6.30の期間(一時期、休載期間あり)、執筆されたバックナンバーをご紹介します

 
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大辻隆弘

 
二の腕

 二の腕とは、肩と肘の間の部分のことを指すらしい。が、私はずっと、それを肘から手首までの部分のことだと信じていた。
 だってそうではないか。指には、第1関節と第2関節がある。第1関節はてのひら近く、第2関節はその向こうにある関節だ。とすれば、腕の場合も、体に近い上腕が「一の腕」で、その向こうにあるのが「二の腕」なのだろう。私は自分なりにそう信じていたのである。
 先月、私はこの欄に、腕の長さを自慢(?)するエッセイを書いた。「既製服を着て腕を伸ばすと、袖は二の腕の上の方でつるつるてんになってしまう」。そう書いたのだが、この「二の腕」は、もちろん、肘から手首までの部分のつもりなのである。
 ところが、このエッセイを読んだ女性が、先日、笑いながら、こう話しかけてきた。「大辻さんの腕ってむちゃくちゃ長いんですね」。彼女は、自分の上腕を指さして言う。「だって、袖がここまでしかないんでしょ」。
 きょとんとしている私に、彼女は、二の腕の正確な位置を教えてくれた。私は、彼女の言葉によって、初めて「二の腕」という言葉の正しい意味を教えてもらったのである。穴があったら入りたくなった。
 まあ、でも、間違いを犯すのは何も私だけではない。岡井隆にも次のような1首がある。

  自転車の鞍部をはさむただむきのきよき少女よわれに来ずやも 
                           『マニエリスムの旅』

 「ただむき」というのは腕をあらわす古語だ。が、少女が腕でサドルを挟むはずはない。岡井は、この歌において、どうやら「ただむき」を太腿のことと誤解しているらしい。
 あの岡井さんでも間違えるのだから。そう思って、自分を慰めたいところなのだが、やっぱり、「二の腕」と「ただむき」では、教養の上で、というか、常識の上で、月とスッポンほどの違いがあるなあ。

 追記:と、ここまで書いて、不安になって「第一関節」を調べてみたら、「指の先端に近い関節」とある。すると、私は根本から間違えていたのか。やれやれ。
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