短歌ヴァーサス 風媒社
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2004.8.2〜2006.6.30の期間(一時期、休載期間あり)、執筆されたバックナンバーをご紹介します

 
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荻原裕幸

 
成人通知

豚の交尾終わるまで見て戻り来し我に成人通知来ている
(浜田康敬)

 初出は一九六一年の第七回角川短歌賞受賞作「成人通知」。
 成人通知ということばは、一般的ではないようにも思うが、役所から来る成人式の案内葉書の類だろう。満二十歳の誕生日になれば、法的には成人である。成人になることにこだわるのだとすれば、誕生日を書くのが自然である。
 ここでモチーフになっているのは、成人になることではなく、成人式なのだと考えていい。
 豚。しかも交尾。こうした詩情を削ぐことばを短歌の歴史は好んでは来なかった。それを冷静に「終わるまで」見る自身に、社会的には祝われてしかるべき「成人」を配したことで、シニシズムと言われることが多かったようだ。だが、ぼくはちょっと違う感触をもっている。
 たしかに、ここには冷笑的な印象があり、無視に近く忌避する姿勢も見えている。でもそれは、社会や現実に向けられたものだろうか。
 先に書いた通り、一首のモチーフは、成人になることではなく、成人式である。冷笑され忌避されているのは、成人式という儀式なのだと読むべきだろう。華やかなセレモニーに対置された豚の交尾は、単に詩情を削ぐことを目的としているわけではなく、むしろ、ぼくたちの現実の生を象徴していると読んだ方がいい。
 だとしたら、これは、シニシズムではない。虚飾に満ちたセレモニーよりも、現実の生を肯定する、きわめて社会的な姿勢がここにあるのだと読むべきではないのか。さらに言えば、この一首や「元旦に母が犯されたる証し義姉は十月十日の生れ」には、伝統美を重視する短歌表現に対しての叛旗を読みとっていいのかも知れない。

※掲出歌は、第一歌集『望郷篇』(一九七四年、反措定出版局)所収。
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