短歌ヴァーサス 風媒社
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2004.8.2〜2006.6.30の期間(一時期、休載期間あり)、執筆されたバックナンバーをご紹介します

 
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櫂未知子

 
一期一会の寿司の味

 昨年末は著名俳人の訃報ラッシュだった。追い討ちをかけるように、この松過ぎに北海道の知人(河草之介さんという)が亡くなったことを幼馴染から知らされた。地元の新聞記事から察するに全くの急逝だったらしい。だって、元気一杯やる気満々の賀状を頂いたばかりだったもの。「同人誌を創刊するので協力してね」って言われていたのだもの。
 河さんは、私の6歳からの幼馴染の元上司だった(なんと奇遇)。そして、私がまだ現代俳句協会にいた十年以上前、新人賞に応募した時に受賞した人でもあった。「ふうん、おじさんでも受賞できるのか」と当時思ったことを覚えている。幼馴染のおかげで知り合い、そこからお付き合いが始まった。もっとも、東京と北海道だからなかなか会うことができなかったけれど、主に手紙や葉書のやり取りを楽しく続けた。張りのある字、鋭く切れ味のある口調、何でもさっさとやる小気味よさ――それでいて温かい人だった。
 昨年の早春、河さんと幼馴染と私とで小樽駅から運河までゆっくり下り、港の見える展望喫茶室でたっぷり話した。寿司屋でご馳走になった。札幌の俳人協会で講演した時は聴きに来てくれた。鋭く楽しいスピーチもしてくれた。その時、無闇に明るい道産子達と一緒にスナックで盛り上げてくれた(河さんは道内の俳人を束ねる立場だったから顔が広かった)。俳句の仕事で北海道に行けるなど、以前は考えてもいなかった私だが、行けばそこに河さんはいつもいてくれたのである。
 私は河さんから頂くばかりで、何ひとつお返しできなかった。俳句の世界は高齢の人が多く、出会いは常に永遠の別れと隣り合わせ、そのことをじゅうぶん承知していたつもりだったが、まだ俳人の平均年齢に達していなかった人といきなり別れるとは思ってもいなかった。存分に付き合った人との別れも打撃だが、付き合いの途上で、しかも稀に見るパワーの人とさようならするのは、わが俳句ライフにおける大きな損失である。

  大寒や一期一会の寿司の味    未知子
      (注:「寿司」はもともと夏の季語)
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