短歌ヴァーサス 風媒社
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2004.8.2〜2006.6.30の期間(一時期、休載期間あり)、執筆されたバックナンバーをご紹介します

 
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矢島玖美子

 
ラブホ句会

 そこはヴィラ。窓から湖が見下ろせる宿。のはずだった。
 いや確かに湖だった。半分は。
 だが、左半分に見えるのはラブホテルじゃないかあああ。気落ちするわたしをよそに、同行の三人は大喜びだ。情けない状況を楽しむのがうまい。
 やがて中の一人が鞄から短冊の束と原稿用紙を取り出す。始まるのか、句会。
 題は「山」と「めくる」に決まり、20分で提出。各自が書き終えた短冊を集めて、原稿用紙に手分けして清書する。頭の中がラブホテルでいっぱいのわたしは、まぬけなことに自分の句を間違えて清書してしまった。

  (短冊)  山を目指してたどり着くラブホテル
  (原稿用紙)山をめくってたどり着くラブホテル

 「『めくって』のほうが現実感がなくておもしろい」と言われて考えた。山をめくるのはずるいんじゃないか。ずるいという感覚は、作為、つまり「これとこれを結びつけたらおもしろいでしょう」と言われているような気持ち悪さに繋がる。以前別の句会で、ある表現への「現実に有り得ない」というわたしの発言に対して「なんでもできるのが言葉の世界だ」という意見が出た。確かにそうだ。後になって、「有り得ないこと」が一句のなかでリアリティをもつかどうかは、その表現がそれ以外の部分にどう働いているかによるのだと思った。わたしの句でいえば、山をめくるか目指すかが問題なのではなく「たどり着くラブホテル」に対して「山をめくって」がどの言葉よりも力をもつのか、ということなのだ。いや、そもそも「たどり着くラブホテル」でいいのか。この原稿にラブホテルって何回書いたのか。
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