短歌ヴァーサス 風媒社
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2004.8.2〜2006.6.30の期間(一時期、休載期間あり)、執筆されたバックナンバーをご紹介します

 
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佐藤りえ

 
本がない!

 旅先に限らず移動中に何を読むかというのはそれなりに切実な問題である。普段は文庫本を一、二冊鞄に忍ばせている。持ち歩いているうちに折れたり破けたりしがちなので、カバーは外して市販のものにつけかえてある。こうすればどんな人目を憚るような内容の本でも堂々と読むことができて安心である(本来の目的はカバーの保護です)。
 新幹線など、ある程度まとまった時間座っていられることがあらかじめわかっている場合は、その時読みかけのハードカバーと文庫を数冊持っていく。内容は短編小説やエッセイがほとんどで、短歌の本はあまり読まない。なぜか頭にすっきり入ってこないのだ。飛行機の中では機内誌をじっくり読む。時々短歌コーナーがあったりする。クロスワードパズルは解かない。鈍行やバスの中であまり本は読まず、ぼーっと窓の外を見ていることが多いのは乗り物酔いするからです。
 ある旅行の最中、まったく何の本も持たずにいることに気がついた。就寝前、目覚しをセットしてベッドに潜ろうとしていたときのことだった。寝ながらページを捲りうとうとしようと思ったが、荷物にも、その部屋のどこにも、一冊の本もない。ホテルに備え付けられがちな聖書も、観光案内の本もない。仕方なくライティングデスクに置いていた夕刊のTV番組表のコピーを眺めてみることにした。新聞のサービスがないそのホテルでは、チェックインの際鍵と一緒にそれを手渡してくれたのだった。
 ほんのりわびしい気持ちになりながら番組表の下のほう、深夜から翌朝にかけての部分を見て一人つっこみを始めた。深夜早朝枠は番組名の省略が激しい。「苗床」って何だ。午前5時と5時40分の「買い物」って別番組なのか、続いてるけど。午前3時からの「地方経済の報告」は、もっと有効な時間に放映した方がよいのでは?などとあらさがしをしているうちに眠気が高まってきた。照明を消し、布団の中にうずくまる。朦朧とする意識の中で明日は絶対どこかで本を買ってやる、文章を読んでやる、という決意がむなしくこだましていた。
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