短歌ヴァーサス 風媒社
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2004.8.2〜2006.6.30の期間(一時期、休載期間あり)、執筆されたバックナンバーをご紹介します

 
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矢島玖美子

 
「はる」の心

 「お客さん、おもしろいおハシの持ち方で食べはるなあ」
 漫画家グレゴリ青山が描くところの料亭の女将らしき人物が、箸をバッテンにしている客に笑いながら言う。『ナマの京都』(2004年 メディアファクトリー刊)の「よそさんの知らない京都語入門? はる」の例文である。解説には「語尾につける敬語。ただし本当に尊敬しているとは限らない」とある。うーん、京いけず炸裂。
 そういえば、京都出身の友人が「魚が泳いではる」と言うのを聞いたことがある。京都人は魚を尊敬しているのか。それとも魚にもいけずなのか。
 辞書を見てみると「〜はる」は軽い尊敬の意を表す言葉だが、現在は丁寧語として使われることも多いとある。さらに、彭飛著『大阪ことばの特徴』(1993年 和泉書院刊)の中で真田信治大阪大学助教授(当時)は、「『はる』の使い方は『いらっしゃる』などにはないものがありますね。単なる尊敬語ではありません。話し相手への配慮も使い方を左右するのです。その点で『丁寧語』とも言えます。使用の幅が広いわけです」と発言している。なるぼど。以前から、京都や大阪出身の友人がごく普通の会話の中で「〜はる」という言葉をよく使うのを聞いて、そのニュアンスをいいなあと思っていた。ちょっとした場面で「軽い敬意」や「相手への配慮」を表現できる言葉があるのはいい。
 「相手への配慮」には「相手との距離を測る」という意味もあるのだろう。
 そして京都人の場合、「いけず」で言っているのかもしれないということは覚えておこう。

  美しい言葉を重ね遠ざける   泉 紅実
                (2003年 詩遊社刊『シンデレラの斜面』)
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