短歌ヴァーサス 風媒社
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★短歌ヴァーサスは、11号で休刊になりました★
2004.8.2〜2006.6.30の期間(一時期、休載期間あり)、執筆されたバックナンバーをご紹介します

 
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増田 静

 
屋上にて(3)

 野菜はもっぱら無人販売所で買う。スーパーのほうが安いこともあるのに、やめられない。トマトがほしくて出掛けたのに、なじみの販売所が品薄で、はしごをすることもある。数メートルいかないうちに、すぐに次の販売所があらわれる。じゃがいもや玉ねぎ、この季節ならきゅうりや枝豆、ゴーヤー、かぼちゃ、瓜、オクラや、ピーマンなど、豊富だ。
 近所には畑が点在し、そのそばには、だいたい無人販売所がある。目の前の畑で収穫したものを直売しているわけだ。野菜は「せたがやそだち」といい、畑は「ファミリー農園」といって、区が貸し出しているらしい。
 販売所のスタイルもいろいろ。「直売」という幟だけで、店を開くのは10日に1度くらい、取り扱うのは茄子だけ、という渋い、無口で一本気なおやじを連想させる店もあれば、「はりきって営業中」「いらっしゃいませ」「空駐車場ありま〜す」と数々のはり紙とともに、ハイビスカスの造花でかざった店もある。「はりきって営業中」と言われても無人なので、なにが「はりきって」いるのかとまどうが(野菜か?)、最近は店を開く前にも「はりきって準備中」という案内が増えた。
 料金箱もいろいろ。ポストに鍵をかけるスタイルがいちばん多い。今はなつかしい赤電話を利用したところもある。料金を落とすと、電話がつながる瞬間のあの音。おつりが出ないので気をつけなければいけない。
 無人だけに、料金をちょろまかされることもあるらしく、その注意書きや、ごくまれに防犯カメラを設置し監視下にある店もある。おばあさんが店番よろしくどっしり待機したところもあり、もはや無人でもない。
 無人販売所で手にする収穫のよろこび。自分で育てたわけでもないのに、野菜に喜びを感じてしまうのだった。
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