短歌ヴァーサス 風媒社
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★短歌ヴァーサスは、11号で休刊になりました★
2004.8.2〜2006.6.30の期間(一時期、休載期間あり)、執筆されたバックナンバーをご紹介します

 
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佐藤りえ

 
微妙な観光

 旅先での夜、なんとなく間が持てないが遠出には遅いような時間、ふとコンビニに立ち寄る。いつものように雑誌の棚を眺めたり店内をうろついていると、見慣れないものに目が止まる。自分にとっては珍しいがその土地ではあたりまえに売っているものなのだろう、見る間に手にとってレジに歩いていくひとがいる。那覇のある店では惣菜コーナーにチャンプルーが、食材コーナーにタコライスの素が、菓子パンコーナーにサーターアンダギーがあった。どれもガイドブックなどで名前を知っているものだったが、みやげもの屋でなくコンビニの普通の棚に普通に並んでいるのが意外だった。最近では、そういうものを発見しようと、旅先で特に買う物がなくてもぷらりとコンビニに入ることが多くなった。
 ところでわたしは観光が苦手だ。名勝史跡を訪ね、ご当地自慢の味に舌鼓を打ち、歴史をなんとなくひも解き、ガイドさんの話に耳を傾け、集合写真、みやげ物屋で「○○に行って来ました」なる味のまったく不明なクッキーを買い、写真をたくさん撮るという一連の行動にどうもうまくなじめない。単に団体行動が苦手なだけ、という話もあるが、知らない土地を訪ねて最も興味を抱くのが「その土地で人がどのように暮らしているのか」だからかもしれない。暮らしを知るのに大きな手がかりといえば店であり、そこで売られている商品である。どこにでもあるコンビニにもそこにしかないものがあるのだ。
 珍しいものを見て喜ぶ、というとやってることとしては観光と大差ないようにも思えるが、楽しみなのは物珍しさではない。微妙な差異からそこでの暮らしを空想する。数日後に帰途につくわたしにその日は永遠に訪れないかもしれないが、もしここに暮らし、人生送っていたらどんなだろう、とふと思う。たむろする高校生や若いカップルを眺め、ここで過す青春はどうよ、とまた空想する。手ぶらで帰るのも悪いような気がして、申し訳程度にガムやジュースを買い、ホテルへぶらぶら戻る。観光嫌いの微妙な観光は続く。
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