短歌ヴァーサス 風媒社
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★短歌ヴァーサスは、11号で休刊になりました★
2004.8.2〜2006.6.30の期間(一時期、休載期間あり)、執筆されたバックナンバーをご紹介します

 
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矢島玖美子

 
「スティーブンスさんです!」

 「スジナシ2発売記念・笑福亭鶴瓶トークショー」に行ってきた。
 「スジナシ」というのは名古屋のテレビ局でやっている番組だ。(風媒社のみなさんご存じですか。わたしは知りませんでした)場所の設定だけを決めて、笑福亭鶴瓶とゲストが台本なしで演じる。どこにどう転がるかわからない。会場では、DVD未収録の2本を見ながら裏話が聴けた。
 そのうちの1本は俳優・八嶋智人の回だった。舞台は飲み屋のある路地裏。最初は、不審者の八嶋をその界隈の住人である鶴瓶が問い詰めていたのに、いつのまにか八嶋は刑事だと名乗り、鶴瓶は殺人の疑いをかけられるはめに。「ここの家のコンドーさんにアリバイを証明してもらう」と鶴瓶が引き戸を叩く。
 八嶋が言う。「そこにはもうコンドーさんは住んでない!」「じゃあ誰が住んでるんですか」「……スティーブンスさんです!」
 「アタマおかしいわ、この人。スティーブンスさんやて」
 終演後の鶴瓶がカメラに向かってぼやく。最大の賛辞だ。
 追い詰めて、追い詰められて、露わになる力。
 句会で初めて「五分間で詠めるだけ詠め」と言われたときのことを思い出す。集中できず、周りの人がたてる鉛筆や紙の音をただ聞いているだけだった。
 それから数年経って、出句締め切り間際に幻を見たことがある。「紅葉」という題で作っていたら、自分が紅葉の中に放り込まれたような感覚に陥ったのだ。どこか別の場所へ連れていかれそうだった。そして思いもしなかった言葉が浮かんだ。一度きりの体験だ。
 今では、追い詰められると「できなければできなくてもいい」と開き直ることを覚えた。だめじゃん。
 トークショーの後、「スジナシ1」も買った。プレーヤーは持っていない。
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