短歌ヴァーサス 風媒社
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2004.8.2〜2006.6.30の期間(一時期、休載期間あり)、執筆されたバックナンバーをご紹介します

 
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松井 茂

 
おもいつきの詩学(二)

 詩人の松井茂です。詩人だから詩を書いています。あるいは、詩を書いているから詩人です。
 さて、前回触れたプロダクトデザイナー・深澤直人の語る「未来の痕跡」について、氏の実際のプロダクトを例に説明してみます。氏による傘立てのデザインとは、次のようなものです。「玄関先の壁面から一五センチメートルくらい離れたコンクリートの床面に、幅八ミリメートル、深さ五ミリメートルくらいの溝を彫っておけばいい。傘を置きたい人は先んじて、傘の先端を固定できるひっかかりを探す。その行為に先回りして彫られた溝は、間違いなくそれを探す傘の先によって発見され、結果として玄関先に傘は整然と並ぶことになる」(原研哉『デザインのデザイン』岩波書店・二〇〇三年)。深澤は、ある環境において反復されうる現象の痕跡(=「未来の痕跡」)に気づき、その環境と人の関係に折り合いをつけることが、デザインだと考えているのです。これは生態心理学の概念、アフォーダンスによる考え方であるとのこと(詳細は後掲書参照ください)。さらに深澤は、高浜虚子の『俳句の道』を引き、この考え方はつまるところ「客観写生」なのだと言います(『デザインの生態学』東京書籍・二〇〇四年)。曰く「アートというものは客観的なものであり、主観的なものではないということです。現象をそのまま読まなければいけない」と。
 私は、デザインと詩を安易に繋げるつもりはありません。もちろん本質的に別物だと思います。しかし、深澤の方法論はとても共感できる詩学です。最低限のことだけをするという方法。それは客観的に気づくだけであり、詩においては、言葉の意味の枠組みと枠組みの間にある稜線に敏感になるということに過ぎないでしょう。これに関係する実体験として、私は、わりと最近「詩は周期性から世界を叙事する行為だ」と書いたことがあるのですが、それについては次回触れたいと思います。
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