短歌ヴァーサス 風媒社
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2004.8.2〜2006.6.30の期間(一時期、休載期間あり)、執筆されたバックナンバーをご紹介します

 
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黒瀬珂瀾

 
ふたご姫の区別なんて飾りです! 解らんのです!

 ドストエフスキーの小説、登場人物覚えきれませんから。メモしても無理ですから。それと同じかどうかは解らんが、マンガ見たことない人にはキャラの区別がつきませんから。正直、『BLOOD+』のソロモンと『ローゼンメイデン』の槐とか、『キングゲイナー』のアデット先生と『灼眼のシャナ』のマージョリー姐さんとか、いやもう、思いきって言えば、遠坂凛と惣流アスカ・ラングレーとか、ええい、極端な話、星野ルリと綾波レイの区別つかない日本国民、いっぱいいるはずに1000カノッサ。
 それは仕方がない。興味がないから。自分から「見よう」「味わおう」という気が無いから。アニメに興味が無い人にとってはそれは至極当然のことで、むしろ、二十歳過ぎてアニメ見ているこちらがおかしい。生きててすみません。
 
 キャラクターの識別だけに限らない。例えば、いかつい男が屹立する背景に「ゴゴゴゴゴゴゴゴ」という文字が書かれていたら、それは、緊迫感を示している。決して地震が起きたわけでも、火山が噴火したわけでもない。怒りや圧迫感など、音を伴わない空気を文字的に表した秀逸なオノマトペだ。

 http://www1.odn.ne.jp/cjt24200/yamada/text/_0/0.gif
 (ヤマカムさんごめんなさい)

 『ジョジョの奇妙な冒険』で知られる荒木飛呂彦が創出した、この独特なオノマトペはその後、様々な作品に伝播している。田丸ヒロシのロリオタプーマンガ『ラブやん』に至ってはほとんど全ページ意味もなくゴゴゴだらけ。
 マンガではむしろ、文字媒体による情報伝達が重要なのではないか。現在、最も前衛的な言語表現を繰り広げているのはマンガだ。福本伸行の『アカギ』を読んだオタクたちは、群衆が放つ「ざわ… ざわ…」というオノマトペに驚いた。
 その驚きこそが、オタクの喜びでもある。アニメマニアになることとは、無数の作品の差異を浴びることに喜びを感じてゆくことである。アステロイドベルトの中をいく宇宙船がいくつもの小惑星を見切ってはかい潜っていくように、眼前のものが何を示しているかを識別してゆく。
 しかし、その空気感が解らない人の方が多いだろう。別に解らなくてもいい。それは、短歌に無縁の人が、斎藤茂吉の歌も太田水穂の歌も、同じ短歌ということで区別がつかない事に等しい。そして、

 髪の毛がいっぽん口にとびこんだだけで世界はこんなにも嫌 穂村弘

 あの青い電車にもしもぶつかればはね飛ばされたりするんだろうな 永井祐

 この2首の空気感、価値観の違いが感じ取れないということにも等しい。
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