短歌ヴァーサス 風媒社
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★短歌ヴァーサスは、11号で休刊になりました★
2004.8.2〜2006.6.30の期間(一時期、休載期間あり)、執筆されたバックナンバーをご紹介します

 
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黒瀬珂瀾

 
天使が騙る

 それでは今週もリスナーからのおハガキいってみよー。こんにちはからんさん、ぼくも『Fate/stay night』がハーレム化してほしいです。でもどうしてキャスターなのですか? ここはやはりイリヤが……ひっこめ炉里オレ様の趣味だよキャスターが若妻でいいんだよお前は一生アタラクシアやってろってことで次のおハガキー……黒瀬氏へ。『ときめきメモリアル』がハーレムアニメの第一作とは大変な間違いです。そもそも『ときメモ』はゲームであってアニメではありま……うっせえ『ときメモ』とか略してんじゃねーよドオタんなこた百も承知だっつーの『天地無用! 魎皇鬼』って誰も知らねーだろメモリアルな方がまだ知られてんだよOVAにもなったしギャルゲーだから話も解りやすいんだよすっこめという訳でどこにでもミスリーディングはあるというおハガキでした。微妙に本論をずらし、側面的な内容をさも主題かのように扱うことこそバッシング技法の基本である。昨年、漫画家の末次由紀の著書が講談社により全て回収・絶版処分を受けるという事件があった。末次の作品に多数、他のマンガ作品からの「盗用」が指摘されたためだ。詳しくは以下を
http://www.cabin.jp/k55yuki/
で、問題になっているのは末次が他作者の作品から「絵」の構図を写し取って、自分の作品に使用していたという点。確かに、バスケットボールをプレイする人間の体を想像だけで描くのは大変に困難だ。それでつい他のバスケット漫画の人体をトレースしてしまった。しかし、トレース元になった井上雄彦の『スラムダンク』もバスケット雑誌などの写真を参考にしているわけで、全作品回収絶版というのは処分としてはちょっとやり過ぎな気もする(ただ、末次の場合は前歴が余りにも多いのでやむを得ないが)。トカゲの尻尾切りのような印象を受けるのも仕方がない。しかし、この事件の発端は、匿名の多数者がネット上での末次の振舞いに理由なき不快感を持っていたことに他ならない。一連の末次バッシングは、事件の本質を作家個人の「倫理性」という枠に収めることで、「社会正義」を振りかざす立場に立った。だから、この事件は末次一人を破滅させたことで収束した(おそらく、末次の再起は相当に困難だろう)。だが、本当に問題にすべきことは、マンガ制作という労働的にも時間的にも精神的にも過酷な作業において、共有財産的に使用することの出来る構図や資料のアーカイブの欠如である。なぜ末次は断罪され、おなじく写真家の権利を侵害している井上は不問に付されるのか。この事件以降の漫画家たちは何を参考にして特殊な状況の構図を描けばよいのか。きちんと編集側がフォローできるのか? それが出来ないから、この様な問題が起こったのではないのか。
 これが他者が創作した「ストーリー」をそのまま盗作したという話だったら、話はもっと簡単かもしれない。「絵」と「物語」の両方を備えたマンガだからこその複雑な問題ではある。では、それが「詩」「短歌」「俳句」だったらどうなるのか。とりあえず、詩には「絵」は無いんだけどねそれでは最後に次の2首を読んで感想プリーズ。おハガキ、メール、ブログエントリー、掲示板書き込み、ミクシイ日記、テレパシー、夢枕その他、感想待ってまーす、せんきゅー。

身の九竅七つまで顔に集まれり げにおそろしや目鼻耳口
九竅のうちの七つを晒しつつ歩む神戸を覆ふ春寒

(九竅=きゅうきょう 人間や哺乳動物の体にある九つの穴。口・両眼・両耳・両鼻孔・肛門・尿道をいう。大辞林より)
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