短歌ヴァーサス 風媒社
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★短歌ヴァーサスは、11号で休刊になりました★
2004.8.2〜2006.6.30の期間(一時期、休載期間あり)、執筆されたバックナンバーをご紹介します

 
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島なおみ

 
Innocence 無邪気

 棘が密生する肉いろの花びら―、のような熱い舌がぴちゃぴちゃと音を立て、左足の指をひとつずつしゃぶり上げる。足首、膝、大腿部を優しくなぞり、反対側の鼠径部に触れて、強く丹念に舐めてゆく。
 「あたしは虎よ」みだらな雨のように彼女がつぶやく。
 「あなたはただの飼い猫よ」採用官のように視線をあげてわたしは答える。
 彼女は器用に体をよじると、冬の半島のような白い背中に舌を伸ばし、
 「あたしは大鷲よ。南の森へ王者のように凱旋するの」。そう夕焼けのように宣言する。
 「戸棚の上から降りられず、半鐘のように喚いてたじゃないの、さっき」わたしは噴水のように嘲笑ってやった。
 ぴぴぴ…、揚雲雀のような電子音。他人事のように洗濯機が止まった。
 「あなたを喰ってやるから」
 「管理センターで雑巾のようにと殺されるわよ」
 ブレーキランプのようなひと睨みをすると彼女は、姿勢を正してキッチンへ向かった。誇り高いツゲの木のように。
 がりりがりり、がりり、こんぺい糖のようなドライフードを砕く音が聞こえる。今、あの牙で噛み砕かれているのはわたしの頭蓋のような目眩。
 やがて彼女は砂漠のように息をひそめ、柳のように腰をくねらせて近づく。
 「あたしは銀色の虎よ」
 「虎のようなふるまいをするただの灰色の猫なのよ」
 「じゃあ、あなた自身は? 何のようだというつもり?」
 「……」
 彼女は大蛇のように素早く、わたしの紫のたてがみに噛みつく。
 「愛してる」彼女は呻く。「愛するように噛んでやる」
 ハレムのようなソファの上で、わたしたち2匹は蛞蝓のようにもつれあって、互いの毛皮を噛み続けた。
 見なくても分かる。川のうえにオリオン座が直喩のように横たわっている。窓の外は氷点下の午後7時。


 +25 Easy Etudes, N゚5


 あかつきに恋せしのちにうつくしき夕ぐれと逢ふ やうな手紙だ
                     岡井隆(『馴鹿時代今か来向かふ』より)

 上記作品のなかで「やうな」と1字空きが果たす役割を言いなさい。
 また直喩(simile)を用いて、異なる2つの概念を結ぶ短歌を4首つくりなさい。
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