短歌ヴァーサス 風媒社
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★短歌ヴァーサスは、11号で休刊になりました★
2004.8.2〜2006.6.30の期間(一時期、休載期間あり)、執筆されたバックナンバーをご紹介します

 
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若原光彦

 
8月31日

 数年前『8月31日』というノベルゲームを考案したことがありました。主人公はある小学生。夏休み最後の朝、目覚めたところから物語は始まります。そこで最初の選択肢が出てきます。たとえばこんな。

A:「夏休みも今日で最後かあ」
B:「宿題どうしようかな……」
C:「気持ちのいい朝だな」
D:「まだ眠い……」
E:「えっと……ここは?」

 スタート時、主人公の設定は「小学生」以外明かされていません。ルートによって主人公が男か女か、どこにいるのか、宿題は済ませてあるのか、友達は誰か、兄弟はいるのかなどがわかってきます。たとえば上記のEを選んだ場合

A:「そうだ、あたし誘拐されたんだ」
B:「俺、おばあちゃんち来てたんだっけ」

などと展開するかもしれません。
 物語は9月1日まで続きます。そして9月1日が終わると、十数年後が描かれます。宿題をすっぽかした子はどんな進路に進んだか? 宿題を最初の一週間で終わらせていた子はどんな職に就いたか? 誘拐された子のその後は? 最後の日に虫取りをした子とゲームをした子では将来はどう違っているか? 小学生同士のカップルは結ばれたか?

 起案当時、私は『人間の人生はどこで変わるのか?』ということを考えていました。『例えば、8月31日をどう過ごすべきか?』。将来性の縮図として、小学生の8月31日を使ったら面白いと考えた訳です。
 このゲームは皮肉と懐古に満ちたあまりに“あざとい”ものです。また上記だけでは「夏休み末日シミュレーター」になってしまいエンターテイメントにならないので、主人公たちの行動をピースに「なぜ彼らが主人公なのか、なぜこの一日で人生が決まるのか、このゲームはいったい何なのか」が解明する謎解き要素を入れなければなりません。そう考えるともう自分の手には負えない。以来このゲームは放置されたままです。

 8月31日とは何か。どう過ごすべきなのか。その日はいつから始まっていたのか。これまでの8月31日、人々は何を感じどう過ごしてきたのか。全ての8月31日を結ぶものとは何か。このゲームのことが片隅にある限り、8月31日は私にとって特別な日であり続けるでしょう。
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