短歌ヴァーサス 風媒社
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2004.8.2〜2006.6.30の期間(一時期、休載期間あり)、執筆されたバックナンバーをご紹介します

 
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佐藤りえ

 
素晴らしい?

 「男なら一度は言ってみたい台詞」があるのなら、「一生に一度は言われてみたい言葉」というのもある、ような気がする。
 たとえば歌謡曲には時代の気分が反映されていて、その当時流行したものや当時の価値観で素晴らしいとされることがらが歌われていたりする。『嫁にこないか』という曲があるが、発売当時はきっとそういう朴訥な、直接的なプロポーズの言葉が尊ばれたのだろうし、結婚を求めることが女性への最大級の贈り物だったのだろう。
 「僕は、君といる時が一番幸せなんだ」という歌詞(というか曲中の台詞)も聞いたことがある。単純だがこれも、相手への最大級の讃辞だ。たとえ現実にかわされる見込みの少ない言葉であろうとも、聴く人が少しの照れを交えながらこれを「言ってみたいけど言えない/言われたいけど聞くことはない」んだと、作り手の側は認識していて、それはそんなに的外れではないと思う。
 自分が言われてみたい言葉ってなんだろう、と考えだしたが、すらすらと浮かんではこなかった。「幸せだなあ」もいいが、大袈裟で、気障で、聞いた瞬間に笑い出してしまいそうな気がする。だいたい「言われてみたい」のだから聞いてうれしくなる言葉、でしょう?ひっくりかえせば自分が何を一番求めているかということになるのか。これは案外簡単なようで難しい。
 「素晴らしさ」と言った時に、かつては個々の持つイメージにそう大きな差はなかったのかもしれない。しかし価値観は細分化し、「男らしさ」「女らしさ」「たくましさ」「しとやか」など従来なら褒め言葉に違いなかった形容が、万人に通じるわけではない時代になった。より自分の好みを追求できるよう選択肢が増え、細かな差異も尊重されるようになった、ということか。
 12色の絵の具の中から一番好きな色を選べ、と言われたらきっとほとんど迷うことはない。けれど、色数が増えれば増えるほど迷う時間は長くなる。そのぶん、より「ほんとうに好きな色」に近づくことができる…はずなのだけど、どうなんでしょうね。
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