短歌ヴァーサス 風媒社
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★短歌ヴァーサスは、11号で休刊になりました★
2004.8.2〜2006.6.30の期間(一時期、休載期間あり)、執筆されたバックナンバーをご紹介します

 
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荻原裕幸

 
壁の穴

 先日、マンションの同じ棟の一階に新しい入居者があった。賃貸マンションなので住人はしばしばかわる。七年も住んでいる荻原家はすでにかなりな古株である。そして、新しい入居者があるたび、必ずと言っていいほど「事件」があって、それを目撃することになる。
 いちばん多いのは、引越しで出たごみを分別せずにごみ捨て場に適当に出してしまうというもの。名古屋市のごみ分別は大してややこしくもないのだが、引越しして来た場所によっては分別がないところもあるのだろうか。ひどい出し方だなあと思っていると、ごみはきちんと分別して出して下さい、と、すぐに大家さんの貼紙が出る。
 その次に多いのは、こどもの素行に関するもの。壁に落書きをしないで下さいとか、駐車場で野球をするのは止めて下さいとか、フェンスにのぼって遊ぶのは危険なので止めて下さいとか、その都度、大家さんの貼紙が出るのだった。大家さんがいつも見張っているわけではないだろうから、住人の誰かが苦情を出しているのだと思う。ぼくも一度、こどもが電気の共同のブレーカーをいたずらして落としたときには苦情を出した。原稿が数枚分とんだからである(怒)。もちろん貼紙が出た。
 それはそれとして、今回の「事件」は、これまでとはやや異質なものだった。引越しがあった日の夜、一階のその部屋の前を通ると、エアコンの室外機が共用のスペースに置きっぱなしになっていた。よく見てみると、室外機につながれたホースが壁から伸びているのだ。壁からエアコンのホースが出ているくらいは別に驚くことでもないのだが、よりにもよって化粧張りのタイルの外壁に穴をあけてある……。
 あまりに衝撃的で、その夜、荻原家の話題は壁の穴に終始した。今回は貼紙じゃ済まないよね。現在、まだエアコンは撤去されていない。
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