短歌ヴァーサス 風媒社
カレンダー 執筆者 リンク 各号の紹介 歌集案内

★短歌ヴァーサスは、11号で休刊になりました★
2004.8.2〜2006.6.30の期間(一時期、休載期間あり)、執筆されたバックナンバーをご紹介します

 
← 2005.11.1
2005.11.2
 
2005.11.3 →


佐藤りえ

 
肉球異聞

 友人のweb日記を読んでいたら、フランス語には「肉球」という単語が存在しないかもしれない、という会話をフランス人の方とした、という記述があった。肉球を、ひいては猫をこよなく愛するものとして、これは気になる。というわけで、知己の仏文学者に尋ねるとともに、「肉球」のそもそもの語源を調べるべく、図書館で辞書を片端から引いてみることにした。
 広辞苑にも、さまざまな国語辞典にも「肉球」という項目そのものがない。百科事典の「猫」の項目には、「足には柔らかな肉球があり」といった記載があって、普通に器官の一部として認識されているくさい。一体いつから、なぜ、どのようにして、四肢の先端の無毛で柔らかい肉芽みたいな部分(歩行などの際にクッションの役割をはたすことも)がそう呼ばれることになったのか。
 それにしてもナイスネーミングである「肉球」。まず音がいい。「きゅう」のあたりが、ぷっくりとした形状と押して戻る時の感慨をたたえている。肉が露出した部分なのでエロチックでもあり、無防備な愛らしさを感じる。だからこそさわりたくなるのだろうか。人間の掌にもおそらく進化過程の初期段階でははっきりそーゆーものが存在しいていたのだろうけど、今はそうでもない。なので、迷惑千万かとは思うがあくまで猫の肉球を愛好させていただいている。
 当初は浅はかな偏見的見方から、日本人があまりにフェティッシュなため、わざわざそういう名前をつけたのかと思った。あの柔らかな部分をぷにぷにっとしたいがためにそう呼ぶのでは?名前をつけて差別化、細分化をはかるのは得意技ではないか。萌え要素のきめこまかさなど私ごときの想像力のおよばぬところである。かわいらしい女の子がクールで気持ち積極的だったりするのがいい、というジャンルもあるのですか?姉属性と妹属性は華厳の滝とナイアガラぐらいに違うのだろうか?
 そんな自分は強いていえば猫に「萌え」なのだろうか?猫の肉球にさわりたい、といった欲望は全世界共通なのだろうか?下方斜め三十度からのワールドワイドグローバルな疑問解決への道はまだ始まったばかりである。
← 2005.11.1
2005.11.2
 
2005.11.3 →