半ズボンかと思いましたよ。
小学校の遠足かと思ったら中学校の校外学習で、半ズボンかと思ったらスカートで丈が無い。健康的を通過して健康。たぶんまだ中1、いいとこ中2で、女子と男子がくっきり分かれて見学してて甘酸っぱい。男子は全員冴えない髪型で、女子はあれ誰に似てる似てないやいのやいのの半ズボン軍団と千手観音軍団が向かい合ってるここは三十三間堂、正式には蓮華王院。長寛2年(1164)鳥辺山麓・法住寺殿の一画に平清盛が造進。一度焼失するも、文永3年(1266)に再建、室町・桃山・江戸・昭和と四度の大修理を経て、現在に至る。スカートの丈が短い。 堂内には中央の巨像(中像)を中心に左右各500体、計1001体の千手観音が合唱コンクール様式に並ぶ。順路は堂の右から左へながれてゆく。観音はおのおの微妙に表情が違うといってもそれはそれ仏像の範囲内で、中学生の大渋滞は中央を過ぎたあたりで急にすたすた流れはじめる。桃山か江戸か昭和かわからないが、三十三間堂に順路ができてからというもの左の500体は各地からの修学旅行生や各国からの観光客にこうしてすたすた通過されつづけてきたのだろうと思うとすたすた歩くつま先に力がみなぎる。堂を出て靴下の上から靴を履いた先にはアンケート用紙がうずたかく積まれている。
1 本日、ご参拝の目的をお聞かせ下さい。 例)観光、お参り 等…
2 三十三間堂へは何度目のご来堂ですか? イ)初めて ロ)2度目 ハ)それ以上
3 又来堂したいと思われましたか? イ)はい ロ)いいえ
観光、初めて、いいえ。そうつぶやいて市バスの路線図を広げる。アンケートを書くひとの答えは人それぞれだろうが、書かないひとの八割方の答えは観光、初めて、いいえだろう。短歌もたぶんそうだ。短歌を書くひとの短歌は人それぞれであり、そこにはさまざまな差異があるだろう。しかしその手前に横たわる、短歌を書く書かないの差異を見うしなうことが、わたしにはとても怖い。さまざまな書き手とひとつの場に立つということが、書くこと自体を不問に付してしまいそうなおそれ、わたしが[sai]を抜けた理由をそれっぽく言えばそういうことだ。簡潔に言えば、原稿を落としたのだ。 (このコラム、つづく) |