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■内容説明
「あの朝、母は何を思い、身を投げたのか――」。ぼくは母を憎んで生きてきた。逃れえぬ記憶とからまりあうように、くり返す現実と夢幻の日々。――そしてまた“ひとつの朝”が、私に訪れる。「私」小説の新たなる地平を拓く問題作。
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■目次
1 A cup of morning
2 藤の花のにおい
3 夕べは小夏
4 水府
5 占い……「もの」と「こと」
6 民法第八七七条
7 Weather report 68
8 日本語動詞の「時間」
9 飲む目的、飲まない目的
10 鉄橋
11 泣く姿勢
12 衣食足りて礼節は要らず
13 暗い細い水の流れ
14 青黒いものの行列を見た
15 夢の器
16 民主主義の「時間」
17 犬のいる道
18 朝よ朝よ暗い朝よ
19 倶会一処
20 地球の裏の朝
21 夢の終わり
あとがき |
■書評・紹介記事
「読書人」2004年7月2日
「私」小説を超える倫理と教養を蔵した小説構造をもつ(岡本勝人)
本書『I am a morning』は、「私」小説的な構造のからむ長編小説である。主人公は、「君」として語られる大学教授。主人公の「君」のかかえる過去の考察、現在の観察、そこから見えてくる現実感のなかでの未来への期待が、無秩序ではあるが自由奔放な連想の糸のなかで説話論的構造として描かれる。教授と学生の授業や飲み会の風景のなかには、談笑による世代論争も織り込まれる。この小説が提示するものは、歴史を持続して生きるひとりの知識人が、「君」によって、「私」よりも対象化されつつ、「私」小説を超える倫理と教養を蔵した小説構造をもっていることである。
作者と主人公がひとつになれば、日常生活の芸術化としての私小説である。日本の近代文学にとって、「私」小説を語ることは、ひとつの試金石である。身を持ち崩した弟、早世した父親、戦争の残滓、大阪の出自と奈良での疎開体験をもつ主人公の秘密、母のばらずしの記憶と「ぼくは母を憎んで生きて来た」という封建的な母親への感情、戦後の母親を中心とする苦労話と母親を巡る子どもたちのやりとりなど、「君」の世界と社会像は、「私」性のなかでひとつに重なる。……(以下略) |
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