短歌ヴァーサス 風媒社
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★短歌ヴァーサスは、11号で休刊になりました★
2004.8.2〜2006.6.30の期間(一時期、休載期間あり)、執筆されたバックナンバーをご紹介します

 
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黒瀬珂瀾

 
100万人の夜の征当

 そんな頃、偶然見かけた古本屋の50円ワゴンに不思議な匂い。ここを華麗にスルーしておけば、と今にして思いますが、所詮児童のあさましさ、未来を見通すセブンセンシズなど体得しているはずもなく、ふらふらと「わーなんか見たことない星矢の本がいっぱいあるー」。手にとって見開いたページが。
 いまだ目に焼き付いて離れぬ。濃厚なムウ様とシャカ様のベッドシーン。世界が理解不能。明らかに車田正美先生の絵にあらず。でも、なんとなくこの2人がムウ様とシャカ様だというのは分かる。何やってるのこの人たち。突如としてジェンダークライシス猛襲。皇国ノ興廃コノ一戦二アリ。各員一層奮励努力セヨ。あげくがバターン死の行進。本を投げ出し、脅えるように猛ダッシュで帰宅。当夜、知恵熱限りなし。
 しかれど好奇心は猫を殺すどころか、純真な児童の心をターミネイト。翌日、メルトダウンの中を行く危険物処理班のごとく脅えつつワゴンに近寄り、一冊を手に取り、一枚捲っては目を背け、一枚捲っては父のため、二枚捲っては母のため、日の入りあひに鬼が来て、これが「やおい」と押し倒す。
 その、なんというか、「やおい」というのは、マンガ・アニメの男性キャラを男同士で絡ませて、うん、ジュネとか、ボーイズラブとか、まあ、でね、なんだね、オレ様も人生初「やおい」が、当時の例で言えば江ノ本瞳とか、生嶋美弥とか、少女マンガなソフト絵だったらまだ救済があったのよりにもよって四谷シモーヌ大先生。恨みます。山藍紫姫子さんのサイトに挿絵が乗ってた。色んな意味できっついので見ても文句言わない人だけコピペ&各文字間の半角スペースを詰めてアクセス。とりあえず四谷シモンさんとは関係ない。
 w w w . y a m a a i . c o m / s y o g y o / s e i z a . h t m l
 マンガやアニメはただ視聴するだけのものではない。その世界観の中に突入し、自分勝手なストーリーを妄想し、あまつさえ自分でパラレルストーリーを紡ぐことが出来る。その春、オレ様は同人誌の深淵を初めて覗いた。もう世界は、一人の漫画家によって描かれたキャラたちをどう見分けるかというレベルにはなかった。ある特定のキャラが、無数の描き手によりそれぞれの作風で描かれ続ける。同人誌の中であられもない姿態をさらす美少年たち、ミロ、カミュ、征士、当麻、蔵馬、飛影。一万人が一万通りの画風で描いた一万種類の「彼」。その時、私が描いた「彼」と貴方が描いた「彼」が同一人物であり、私が描いた「彼」と貴方が描いた「彼の恋人」が別人であるということを、どうやって人は識別できるのだろう。
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