短歌ヴァーサス 風媒社
カレンダー 執筆者 リンク 各号の紹介 歌集案内

★短歌ヴァーサスは、11号で休刊になりました★
2004.8.2〜2006.6.30の期間(一時期、休載期間あり)、執筆されたバックナンバーをご紹介します

 
← 2004.6.29
2004.6.30
 
2004.6.31 →


増田 静

 
屋上にて(5)

 歩いて5分の農園に梨をもぎに行った。産まれて初めての果実のもぎとりを、まさか東京の世田谷で体験するとは思ってもみなかった。ちらしには「世田谷産のりんごとなしのもぎ取りを楽しんでみませんか」とあり、「雨天中止」で、販売方法は「もぎ取りしたりんごを計り売り」だという。
 ふつう果実のもぎ取りというのは、おやつやおにぎりをカバンにつめてバスに乗りこみ、トンネルをいくつか越えた山の向こうで行われるものかではないのか(イメージ)。歩いて5分の農園の、そのすぐむこうは環八で、近くには成城警察署があり、千歳清掃工場の高い煙突も見える。
 こぬか雨のなか、半信半疑で農園へでかけた。雨だから中止かもしれないと思ったが、乳母車を押した家族づれが2組、静かに帰ってゆくところだ。お祭りのようなものを想像していたのに、これといって盛り上がっている風でもない。ちょうちんも下がっていない。雨に吸われるように静かなので、入るのをためらっていると「どうぞ」と奥さんらしき人に声をかけられた。
 試食をし、かごをわたされると、もぎ取り開始。収穫できる樹には黄色いリボンが結んである。豊水、幸水、菊水と種類の異なる樹がならび、視線が泳いでしまう。分け入っていくうち、ようやくわくわくしてきた。
 梨は、くるっとひねって、きゅっと持ち上げると簡単にもげる。ついついたくさんもぎたくなるところを、慎重に小振りのものを選んでは1個ずつもいだ。1キロ1000円。安くはないが、りんごをおまけしてくれた。種類の違う梨を集めたのに、帰りつく頃にはどれが何という梨だかわからなくなった。冷蔵庫で冷やし、夕飯のあとで剥いてみると、驚くほど甘い。
 梨はそろそろ終わるそう。りんごは11月頃までもぎに来ていいと言う。ちなみに詳細はこちら→ http://www.city.setagaya.tokyo.jp/topics/nougyou/nou-top.htm だんだん世田谷区のまわし者みたいになってきました。
← 2004.6.29
2004.6.30
 
2004.6.31 →