『フラジャイル』について 佐藤弓生 2004/4/24
●「幻の光」(68ページ〜)を起点に
・人間関係の出発点――家族、選べない関係から
バームクーヘンが丸くない国へ行く きっとけんかの少ない国へ(70)
ちちははの争う姿見ざりしを慈しみあう姿も見ざる(73) ※否定形
約束を果たさぬひとの夢を見る「帰れないから傘はいらない」(74)
cf.父に似ておりしことさえ憎むべき対象となる少女期の眉 田中槐
自爆する父の右手に握られし赤き布あり われかもしれぬ 同
●否定形、「ない」歌の数々
・ものごとに無意味さを見ない/ものごとからは(自分は)無意味かも
・自分について考える道具としての短歌――単に私生活の反映ではなく
ちょっと見は氷のようで溶けやしないアクリルキューブかなしくはない(14)
夜の卓をなにかの虫がいっしんに渡るわれなどあらざるごとく(20)
責めるなかれピクルス抜きのバーガーを目的を持たない脱走を(24)
シナモンのドルチェをすくう銀の匙 おんなのこってためらいがない(87)
少女らの言葉は暗号めきてトモダチノトモダチノカレシノカノジョ(91)
世界中花火が終わらないのです。水平線を焦がす紅(108)
●場面の切り取り方、語彙
・映画的な場合
・暗喩をこえて
・錆びた螺子、ボタン、冷蔵庫――回復への希求
よく冷えた皿に盛られたアンディーブさあれこの世のなべてはかばね(26)
しぐるるやタイプライター打つ秘書がひそやかに言う「エルは小文字ね」(38)
さかさまに置いたカップの内側のような部分が君にもあるね(47)
さびついた螺子を一本ずつ洗うように君との会話は深く(61)
わたくしの真中にある敬愛の螺子さびついて歪んでいたり(73)
感情を入れたる箱のビスあまた錆びて開かぬ月曜の朝(90)
家々のボタンだらけの箱のなかしまわれていくかなしみのつぶ(103)
泣けるボタンを押されてみんな抱きあって地上につくる光る泉を(104)
だめになった食品たちをねむらせて夏のしずかなる冷蔵庫(110)
切り分けたプリンスメロンの半分を冷蔵庫上段のひかりへ(122)
●語法や文体の問題
・中途半端さ
・時制、主述関係のあいまいさ
天井のひらたい光幸せになれそうだけどいつもそこまで(84)
しょうがないという時君はある強さ(君そのもの)をのぞかせていた(86)
cf.「愛恋」と「生死」「わかもの」さわやかなことば炎え立つ 真夏 芝にて 村木道彦
死を死と呼び、生を生と呼ぶ どちらとも呼ばないときに電車は走る 千葉聡
夕映えが足から順に染めている倒れたように眠りし君を(29)
ななめからまえから雪よアンゴラの帽子かぶってほほえみあえば(35)
うつくしく触れられもせず近づいていけばいくほど虹はかすんだ(82) |
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