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人類学的バリ研究を人類学する
バリ宗教と人類学』著者 吉田竹也

 私はこの本で、バリの宗教文化にたいするバリ人側の表象と、人類学的研究に代表される西欧側の表象とを、ある種のコントラストをなすものとして捉え、それぞれの表象のあり方と、両者の間の関係を素描しようとしました。やや単純な言い方になりますが、これがこの本の主題です。
 出発点は素朴な疑問でした。私がバリに滞在し、バリ人たちと接する中でもつようになったバリ宗教文化に関するイメージと、既存のバリ研究にある記述内容との間に、ある種のずれがあるのではと感じるようになったのです。後者の中にはまだ書かれていない、バリ宗教文化がもつべつの様相があるという漠然とした思いを、(数年かけて)言語化しようとしたその結果が、この本です。
 内容上、この本は解釈人類学という理論およびその実践に関するリヴュー(第T章・第U章)、バリ宗教の現状を描いた民族誌的記述(第V章)、そして植民地時代以降のバリ宗教の構築過程を描いた系譜学的研究(第W章)からなっています。人類学やオリエンタリズムに関心がある方は、序論・第T章から順次読んでいただきたいと思いますが、ギアツの解釈人類学に関心がある方なら第U章から、難しい話は抜きにしてバリ宗教の具体的な話に関心がある方は第W章から、というように、それぞれの関心に合わせて読んでいただけるように配慮したつもりです。
 バリは日本人にも人気のある観光地です。そのバリの宗教文化が、バリ人だけでなく西欧人(そして場合によっては日本人も)の手でつくられていったといえる面があるということは、人類学においてはすでに常識の一部になっていますが、他の学問領域の専門家や一般の方々にはまだ知られていないことだと思います。文化をつくり育てるのが人間だという一般論と、特定の文化を誰がつくったり変えたりするのかという個別論との間で、文化と人間について考えようとするのが人類学だとすれば、この本は既存の人類学(的バリ研究)を批判的に検討するという作業を通じて、人類学のあり方やその可能性と限界を考察したものだといえるでしょう。
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